ツナギはやっぱ…

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中古ながらレース用のバイクも入手し、次に必要となったのはツナギだった。

ここでもマツから驚きの提案が飛び出した。

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    「ツナギはやっぱ、クシタニ*だろ!」

    *) クシタニ:レーシングスーツメーカーの老舗。そのスーツの性能、快適性、価格はまさにトップクラス。

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今に始まったことじゃなく、マツの考えることはいつもブッ飛んでいた。

レベルE 風に言えば、俺の想像の斜め上を行っていた。

しかし、この提案にはなぜか俺も賛同してしまった。

バイクに乗る者としての、ツナギに対する憧れのような感情からか、

買うなら少しでもいいやつが欲しい!という欲望が

自分達が貧乏学生であるという現実に打ち勝ってしまったらしい。

もしくは、マツのブッ飛び思考が俺にもうつって来ていたのかもしれない…。

とにかく俺達はツナギをゲットするべく、クシタニへと向かった。

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店の入り口で、

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    「よし!行くぞ!」

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異様な気合をみなぎらせて入店。

カウンターにいたオッサンに向かって、意を決して言葉を放つ。

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    「す、すみません。ツナギ欲しいんスけど…!」

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するとオッサンは、

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    「あ、どうぞ。そこにあるやつ見てください」

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と、かるぅ〜く応対してくれた。

知ってはいたけど、やっぱりどれも高い!(一番安くて12万円!!)

そして、間違っても買うことなど無いであろう18万円のツナギを試着。

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    「おぉ!これがツナギかぁ…」

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試着室のミラーに映るツナギを着た自分の姿ににんまり。

そして、実際にどのツナギを買うのかを決めることになった。

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    「うぅ〜ん、悩むなぁ。どれにしよう??」

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考えるフリをしてはみたものの、買うツナギは決まっていた。

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    「じゃあ、“これ”にしますっ!」

                  ↑ これ = ドミネータースーツ:価格12万円

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しかし、既製品ではどうもサイズがしっくりこなかったので

サイズとカラーリングをイージーオーダーにしたところ、価格は14万円に跳ね上がった。

ここまで来ては、引き返すわけにもいかず購入を決断。

この日は内金を2万ほど払って店を出た。

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マツの愛車「もぎ〜」に乗り込み帰路についた俺達は

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    「ついにツナギ注文しちまった!」

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という喜びから、妙な笑みをたたえていた。

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それにしても、ツナギ一着でバイク3台分とは…。

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