初レース 後編
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そしていよいよ決勝レース。
レースは60分耐久レースだったので、1人30分走ることにした。
スタートライダーは俺がやることになった。
ルマン式グリッド*にバイクを並べて、俺は自分のスタート位置についた。
*) ルマン式グリッド : 耐久レースに用いられるスタート方式。
バイクをコースサイドに並べて、スタートと同時にライダーがコースの反対側からバイクに駆け寄り発進する。
サーキットにスタート10秒前からのカウントダウンが響きわたる。
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10、9、8、7、6、5、4、3、2、1…スタート!!
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俺はマシンに駆け寄ってエンジンをかけてスロットルを全開にした!
ところが、エンジンの回転が一向に上がらない!
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「な、なんだっ!?どうしたんだ??」
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気がつけばどんどん他のライダーに抜かれていく。
そして1コーナーの直前でやっとエンジンの回転が上がった頃には
なんとうしろから2番目になっていた。(涙)
スタート直前はかなり緊張していたのに、この思いもよらない展開に
すっかり緊張感も失せて開き直りの走りをすることができた。
前には俺よりも遅そうなライダーが何人か見える。
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「よ〜っし!抜いてやるから待っておれよぉ〜!!!」
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と、気合を入れたまではいいが、結局俺の走行時間の30分間で
抜き去ることができたのは2人だけだった。情けない…。
それもそのはず。トップが40〜41秒で周回していたのに
俺は46秒台を出すのがやっとのペースだったのだから。
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スタートから30分が経過し、マツとのライダーチェンジを行った。
ピットに帰って来た頃には足がしびれて感覚がなかった。
きっと必要以上に力が入っていたんだろう。
一方、マツの走りはというと
何回か縁せきに乗り上げてヒヤっとする場面もあったが
これと言って大きなミスもないように見えた。
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そして、レースも残すところ10分となった時
マツは先行するライダーを、高速の1コーナーでアウトから抜きにかかった。
と、その時!
なんとマツは1コーナーをコースアウトしてしまった!
そのままマツは転倒し、頭から地面に突っ込んで
1回転しながら砂煙を巻き上げた!!
俺は思わず息を呑んだ。
砂煙がうっすらと消えたとき、マツはまだ倒れたまま動かなかった。
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「やばい!今度こそ死んだ!?」
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俺はそう思った。
でも、数秒後マツは動き出した…。
俺達のデビューレースは、10分を残して転倒リタイヤに終わった。
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マツは顔面と肋骨の骨折が完治しないままレースに出ていたのだが
この転倒で、ふさがりかけていた顔面の傷を悪化させ、
この日のために買った、スペンサーレプリカのメットをさっそく傷物にしてしまった。
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レース後、マツは傷物になったメットを箱にしまっておいたらしいが
母親に見つかってしまい、
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「また転んだのか」
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と怒られ、複雑骨折をしていた右の顔面を殴られたらしい…。
まったく懲りないやつだ…。
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デビューレースで結果を残すことはできなかったが
あれだけ派手な転倒はなかなかお目にかかれるものではない。
マツの場合、記録よりも記憶に残るライダー、そんなタイプなんだろう。
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